第1章 グレードシステム:等級の『溝』を意識していますか?
テック企業のグレードシステムの仕組みと、昇進に必要な『質的変化』について
本コースの第1講では、すべてのキャリアの土台となる「グレードシステム」について解説します。
もしキャリアの昇進をゲームのランクマッチに例えるなら、グレードシステムはまさに「段位のルール」です。 全プレイヤーがどのようなランク(ブロンズからプレデターまで)に分けられ、各ランクには何が求められ(ダイヤモンド以上はどう立ち回るべきか)、どうすれば昇格できるのか(ポイントをいくつ稼げばいいか)。これらを定義したものがグレードシステムです。
所属する会社のこのルールを深く理解していれば、適切な目標設定と計画が立てられるようになります。「焦って空回りする」ことも、「実力はあるはずなのに昇進を見送られる」といった事態も防げます。 また、転職においても、相手企業の制度を知ることで、提示されたオファーが自分の実力に見合っているか、市場価値として適切かを冷静に判断できるようになります。
企業や組織によって制度は千差万別ですが、大きく分けると「資格型」と「等級型」の2つに分類できます。
1. 資格体系(国家・業界標準)
医師、会計士、弁護士、あるいは学校の教員などがこれに当たります。
特徴:基準が全国統一されており、組織を超えて通用します。例えば、ある病院の「副医長」は、別の病院に行っても同等のスキル保持者として認められ、資格がそのまま通用します。 公務員や伝統的な大企業の一部でも見られますが、インターネット業界ではあまり一般的ではありません。
2. 独自等級体系(テック企業標準)
多くのテック企業(Web系、SaaS、ITコンサル)が採用しているのがこちらです。 企業が独自にグレード(等級)を定義し、社員を評価し、それに基づいて給与や権限を決定します。
- メリット:企業の事業フェーズや文化に合わせて柔軟に設計・変更できます。
- デメリット:業界統一基準がないため、転職時に「前職でシニアマネージャーだった人が、現職ではミドルレベル」といったミスマッチが起きやすくなります。
ただし、業界のトップ企業(GoogleやAmazon、国内ではメルカリやLINEヤフーなど)の制度が事実上の「業界標準(デファクトスタンダード)」となり、他社がそれに追従するケースが多いのも事実です。そのため、トップ企業のグレード定義を知っておくと、「業界の共通言語」として自分のレベルを客観視しやすくなります。
この独自等級体系は、さらに2つのパターンに分かれます。
- 専門職と管理職の分離(複線型キャリア) 開発、デザイン、プロダクト、データ分析などは「専門職(IC: Individual Contributor)」コースを進みます。一方、ピープルマネジメントを行う「管理職」コースは別枠です。
最近のトレンドでは、まず専門職として一定のレベル(例:テックリード級)に達してからでないと、管理職には進めない設計が一般的です。「技術がわからない管理職」による現場の混乱を防ぐためです。
- 「ジャンプ型」と「ステップ型」 これが今回の重要なポイントです。あなたの会社のグレードは、細かく刻まれた「階段」でしょうか? それとも、大きな段差のある「崖」でしょうか?
非連続型(ジャンプ型)グレード
Googleやメガベンチャーに見られる、レベル間の差が大きく、昇進には『質的変化』が必要なタイプ。
特徴1:役割の質的変化
単に「スキルが少し伸びた」だけでは昇進できません。「役割の定義」そのものが変わる必要があります。 例えば、中級(自律実行)から上級(チーム推進)に上がるには、コードを書く速さが2倍になっても不十分です。「他者を動かし、組織に影響を与える」という全く別の能力が求められます。
特徴2:昇格頻度は低く、リターンは大
初級→中級は2年程度で到達できるかもしれませんが、中級→上級、上級→特級(スタッフ級)は、3年、5年とかかるのが普通です。 その代わり、同じグレード内でも給与レンジが広く、昇進のハードルが高い分、上がった時の年収アップ幅(昇給額)は非常に大きくなります。
よくある勘違い:「S評価なのに昇進できない」
「今のレベルで最高評価(S評価)を取っているのに、なぜ昇進できないのか?」 答えは、「今のレベルの延長線上には、次のレベルがないから」です。 昇進審査やプレゼンで落ちる人の大半は、実績が足りないのではなく、この「レベル間の断絶(ギャップ)」を埋める行動実績の証明ができていないのです。
積み上げ型(ステップ型)グレード
SIerや伝統的な大手企業に見られる、階段を登るように少しずつ細かく上がっていくタイプ。
特徴:昇格機会が多く、一回の変化は小
「グレード1」「グレード2」「グレード3」のように細分化されており、「できることが少し増えれば上がる」という設計です。 毎年のように昇進のチャンスがあり達成感を得やすい反面、一度の昇格による給与アップは限定的です。
懸念点:成長の実感が曖昧になる
「グレード2」と「グレード3」の決定的な違いを、明確に説明できるでしょうか? 面談で似たようなアピールをしても昇格できてしまうため、自分が本当に成長しているのか、あるいは単に年次(勤続年数)で上がっているだけなのかが分からなくなるリスクがあります。
隠れた「見えない天井」に注意
ステップ型であっても、ある地点(例:非管理職の最上位から管理職への移行時)で突然「大きな壁」が現れます。本人は「今まで通りコツコツやっていれば上がるだろう」と思っていますが、実はそこだけ「ジャンプ型」と同じような質的変化を求められます。これが突然の挫折や、キャリアの停滞を招く原因になります。
本コースの推奨
これまでの知見から言うと、たとえ制度がどうあれ「ジャンプ型」の思考でキャリアを築くことをお勧めします。
あなたの会社が「ステップ型」であっても、「ジャンプ型」の基準で自分を客観視してください。 「少し熟練度が上がったから昇格」ではなく、「役割や責任範囲が質的に変わったから昇格」を目指すのです。 そうすることで、社内の曖昧な評価に一喜一憂せず、どこでも通用する市場価値の高い「ポータブルスキル」を身につけることができます。
まとめ
- 独自グレードが主流:テック業界は各社独自の制度だが、トップ企業の基準(ジャンプ型)が事実上の標準。
- ジャンプ型の特徴:レベルの壁が厚い、昇格機会は数年に一度だがリターン大。「質的変化」が必須。
- ステップ型の特徴:レベルの壁が低い、昇格機会は多いがリターン小。変化が曖昧になりやすい。
- 「段差」を認識せよ:昇進できない時は「今の仕事の延長」をしていないか振り返る。「役割の質的変化」を証明できた時、初めてレベルの壁を超えられる。
振り返りのワーク
今日の講義を踏まえて、自身の状況を整理してみましょう。
- あなたの会社のグレードシステムは「ジャンプ型」ですか?「ステップ型」ですか?
- あなたが今目指している「次のランク」は、今のランクと何が「質的」に違いますか?(作業量や速さではなく、役割や責任範囲の違いで答えてください)